タイトル:生まれた
ある日
小さな光が生まれた
それは息を吹きかけたら消えてしまいそうなほど
小さな小さな光
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光の周りは温かく優しさに満たされていた
おかげで光は苦しみや悲しみ
辛さも知ることなく
ただそこを照らしていた
……それを面白く思わない影のモノタチ
-2-
コソコソゴニョゴニョ
すき間風が運んで来たのは嘘と噂の兄弟
「さぁさ、踊りの時間だよ!」
影が光をつかまえた
-3-
嘘と噂に手をとられ
楽しく踊り続けていたけど
やがて光は疲れ果て
ペタリと座り込んでしまった
「おや!? もう終(しま)いかい?」
皮肉屋(ひにくや)が舌を打つ
「まったく期待外れだね!」
嘲(あざけ)りが笑う
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光はひどく悲しくなって涙をポロリ
その度にジュッと輝きが小さくなる
「こんなことで泣くなんて お前は本物じゃないな!」
裏表がヒラヒラ言った
「なんだお前は偽物(にせもの)か!だったら闇に落ちてしまえ!」
裏切りがドンと背中を押した
-5-
あっちをぶつけ こっちをこすり
折れたり傷んだりして闇の底へ着いた時
汚れた自分を見た偽物は
なぜか少しホッとしていた
「アタラシイ、仲間」
黒い塊(かたまり)が声をかけてきた
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「我ラハ、残骸(ざんがい) 、オマエ仲間」
ボコボコと動くと嫌な臭いがして
偽物は息苦しくなった
ゴォーと音がして大きくなった残骸
逃げる間もなくつかまった偽物
ーごくんー
残骸が偽物を呑み込んだ
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上も下も分からない 真っ暗な闇の闇
偽物は残骸になり 諦(あきら)めになり絶望となって
ついには
無
になった
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「……」
遠く遠くから ささやき声が聞こえた
「君は誰?」
無は音の連なりを聞いた
「君は誰?」
ハッキリと声が響くと
静かな雨が降り注いだ
それはいくつもの自分となって
光と影に揺れては落ちてゆく
-9-
「君は誰?」
その声が自分のものだと気がついて
目の前に零(こぼ)れ落ちた光と影を拾い集め
思わず強く抱きしめた
「僕は僕」「私は私」
飛び散った残骸が
希望の欠片(かけら)になって輝いた
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ある日 小さな命が生まれた
光と影をしっかりと抱(いだ)いて
希望をぎっしりと握りしめて
「僕たちは生まれた」
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